赤外分光法

JP / EN

神取研究室では、赤外分光法を用いてタンパク質のダイナミクスを研究しています。 研究対象は写真にあるようなロドプシン試料です。それぞれの試料で、吸収波長や生物中での機能が異なります。この違いを生むのがロドプシン中のアミノ酸配列の違いですが、どうして様々な吸収波長や機能をもつロドプシンがいくつも存在しているのか、どのアミノ酸が機能を決定するのか、吸収波長を決定する要因は何か、個性的な(機能が分からない)ロドプシンがどうやって生まれて何をしているのか等、
疑問は尽きることがありません。


研究室の強みである赤外分光法は、試料に赤外線を照射し、試料を透過した赤外線のスペクトルを解析することで試料の分子構造やダイナミクスを解析することができる手法です。このスペクトルには、分子の振動の情報が含まれます。研究室では主に、低温FTIRとATR-FTIRを用いることで世界に先駆けてタンパク質の構造ダイナミクスを明らかにしてきました。


低温FTIR

研究室の主な研究テーマとしているロドプシンは、光照射によりレチナールの異性化を伴った構造変化を起こすことから、光照射前と光照射後の2つの絶対吸収の差を取った差スペクトルを解析することで、その詳細な構造変化を明らかにすることができます。光照射後のロドプシンは、いくつかの中間体を得て機能を発揮します。低温FTIRでは測定温度を常温から液体窒素温度 (77K) まで変化させることができ、温度によってトラップできる中間体が決まっているため、特定の中間体の構造ダイナミクスの情報を得ることができます。




また、試料室中で、乾燥させた脂質再構成した試料に対して、H2OやD2O、D218Oの水の同位体を用いた水和を行うことで、タンパク質中の水1分子のダイナミクスをあきらかにすることができます。図は、緑色光を極大吸収波長に持つプロテオプロテオロドプシンGPRのX-D (O-D, N-D) 領域のスペクトルです。赤色がD2Oを水和した試料、青色がD218Oを水和した試料のスペクトルを示しています。2つのスペクトルを比較すると、D2O試料で見られたピークの一部 (ポジティブ側K中間体:2385, 2482, 2530, 2634, 2676 cm-1、ネガティブ側始状態:2315, 2463, 2667, 2683 cm-1)が、D218O試料で低波数側 (横軸右側) にシフトしています。これらのシフトが見られる信号が、GPR内部に存在する水分子です。また、D2水和のスペクトルのポジティブ側:2198, 2180 cm-1、ネガティブ側2150, 2094 cm-1はプロトン化したシッフ塩基のN-D伸縮振動を観測しており、レチナールがAll-trans構造をとる始状態から13-cis型構造をとるK中間体に異性化する際にN原子とD原子の水素結合が弱まっていることが分かります。



ATR-FTIR

脂質再構成したロドプシン試料をプリズムに張り付け、プリズム表面の分子振動を捉えることができます。送液ポンプと分光器を組み合わせることで、緩衝溶液中のイオンの種類や濃度を変化させて測定することができます。低温FTIRと比較するとより生体内に近い環境での構造ダイナミクスを明らかにすることができます。ロドプシン以外にもイオン輸送能をもつ膜タンパク質の解析や薬剤を結合する膜タンパク質の解析にも用いられています。イオンや薬剤の濃度を変化させて解析することにより、イオンや薬剤の結合能やヒル係数を求めることができます。



もう少し詳しく

Amide I (1600 ~ 1700 cm-1) 蛋白質骨格 (主鎖) のC=O伸縮振動、
αヘリックス:1648-1657 cm-1, βシート:1623-1641 cm-1, 1674-1695 cm-1

Amide II (1500 ~ 1600 cm-1) タンパク質骨格のN-H変角振動、C-N振動

Amide A (3400 cm-1付近) N-Hの伸縮振動


Back